Passion
私たちがSPIDERで目指していること ~テレビの次の50年~

1999年、アメリカの量販店でたまたま世界初のハードディスク・レコーダーを目にしたとことろから、テレビのイノベーションに対する私たちの想いは始まりました。
2000年に起業し、2005年にようやくSPIDERのプロトタイプが完成。2007年にSPIDER PROとして法人向けに販売を開始して以来、私たちは法人事業をメインとしてきました。しかし、1999年のあの時以来、いつかは家庭用のSPIDERを作って日本全国のテレビの見方を変える夢を見続けてきました。

私たちはテレビが大好きです。
テレビの歴史は、そのまま日本の優れたクリエイターの歴史でもあります。テレビ放送開始以来、日本の最も優秀なクリエイターの溢れんばかりの才能がテレビコンテンツの制作に注ぎ込まれ、見る人を楽しませてくれました。しかし、様々なメディアや娯楽が増えてくるにつれて、テレビ以外に費す時間も増えてきたことも事実です。それでも、一方的に「テレビは面白くない」と言い放つ人には私たちはどうしても賛成することができません。

テレビは面白いのです。
ただ、この50年余りの間に変化しなかった部分で、私たちのライフスタイルや価値観と合わなくなってきている部分がテレビにはあります。テレビは面白いけど、便利じゃないのです。「利便性」は現代社会の必須要件です。これを満たしていないという理由だけでテレビから人が去っていき、全体のパイが縮小して日本で最も優れたコンテンツを製作する人たちにお金が回らなくなることは、この国にとって大きなマイナスです。そんなことは何としても避けなければなりません。

SPIDERを使うと、テレビを見る時間が増えます。好きなときに好きな番組を見ることができます。気に入ったCMのシリーズ全部を見ることさえ可能です。大事な試合中継の録画が失敗しないように気に留めておくストレスからも解放されます。自分のペースにテレビを合わせられるのです。
また、自分では気づいていなかった貴重な映像を誰かが教えてくれたり、売り出し中の俳優がCMに出ているをオススメしてくれたりします。毎日、新たな出会いがたくさんあり、飽きることがありません。リビングでテレビのスイッチを入れるだけで、こんな最高のエンターテイメントを気軽に手に入れられるのです。これが利便性とコミュニティパワーを手に入れた「新しいテレビ」です。

このように私たちは、視聴者のひとりとして便利で面白いテレビの視聴体験をしたいと願っています。そして同時に、この新しいエンターテイメントが一過性ではなく持続していけるようにビジネスモデルを作っていかなければならないと考えています。
つまり、「視聴者」を中心に考えながらも、「放送局・コンテンツ制作者」、「広告主」も含めた3者がWin-Win-Winとなる関係を築くということです。「視聴者」は利便性を手に入れる。「広告主」は、大きな発信力を持つテレビに宣伝予算と販促予算を合理的に配分できるようになり、「放送局・コンテンツ制作者」にフェアにお金が配分されていく。これよって、より良質なコンテンツを制作できるようになる。私たちはこのような「テレビの次の50年」を夢見てSPIDERの開発をしています。

家庭用SPIDERの計画

地デジに対応した家庭用のSPIDER(仮称“zero1”)は、2011年12月の発売を目指して開発を進めていました。2008年に発売したSPIDER zeroのユーザーやSPIDER PROのプロフェッショナルユーザーの方々のフィードバックをもとに、「新しいテレビ」と呼ぶにふさわしい「製品」と「サービス」を開発してきました。しかし、SPIDERの最大の特徴とすべき「サービス」を家庭での利用シーンに合わせて突き詰めるのには時間がかかりました。「製品」は出来ていても、「サービス」を伴わないとそれは単なる「全録マシン」であり、最高スペックの「今までのテレビ」に過ぎず、「テレビの次の50年」には至りません。日経トレンディで全録レコーダーの1位の評価を得たにもかかわらず、苦渋の選択の結果、発売を延期しました。

SPIDERの最大の特徴は、「大容量ハードディスクで全録すること」でも「○○リンクを使ってタブレットで別の部屋でも見られる」ことでもありません。そんなユーザー不在のスペック競争やバズワードにはうんざりです。SPIDERの最大の特徴は、テレビが「より便利に」なるだけではなく、「より楽しく、毎日ワクワクする手軽なエンターテイメント」になるということです。そして、複雑な操作や難解な用語を覚えなくても誰でも簡単にこの体験をしていただけるということなのです。そのために、私たちはサービス業者となることを選びました。

ハードウェア売り切りではなく、皆さんのテレビエンターテイメント体験をサポートするサービスを開発し、ユーザーの皆さんの使い勝手を向上させるために定期的、継続的に改善していきます。そしてその対価としてサービス料をいただきます。

従来のようなハードウェア売り切り型のメーカーとしてのビジネスモデルを選択すると、どうしても「容量」や「画質」や「他端末との連携」などハードウェアの機能・スペックこそが差別化の基準となり、毎年毎年売上をあげるために、少しずつ機能やスペックが上がったものを出し続けないといけません。ユーザーにとっては急いで買って損したという不幸な事態が起こります。

一方、SPIDERはソフトウェアとサービス重視であり、ハードウェアは家庭でのご利用に最適なものを1つだけ出し、頻繁なモデルチェンジはしません。究極を言えば、1度買っていただければ、われわれが一生面倒を見ますと言いたいくらいです(実際には部品が生産中止になったり、技術の進歩により一生というわけにはいきませんが……)。ハードは変わりませんが、その代わり、ソフトとサービスはどんどん進化していきます。

SPIDERのサービスの1つは、皆さんが本当に楽しいと思える番組やCMと出会うための仕掛けを、検索やソーシャルなどを通じて提供することです。SPIDERなら番組のワンシーンやニュースをトピック単位で検索したり、気になる女優のCMを片っ端から全種類探して見ることができます。普通のテレビやレコーダーとSPIDERとでは、探しているものに出会うチャンスが数十倍~100倍違います※1。これを実現するためにわれわれは、24時間365日、テレビをモニタリングし、検索に使うインデックスを各SPIDERに配信します。

また、単に探しているものにズバリ出会えるだけでなく、偶然おもしろいコンテンツに出会って興味が拡がる楽しさもSPIDERなら堪能いただけます。ソーシャル・サービスにより、クチコミで話題になった番組やCMが簡単に見つかったり、目に触れてすぐにアクセスできるようにします。このためには、現在分断されているtwitterやFacebookなどのネット系ソーシャルサービスとテレビの橋渡しをしないといけません。そのために、私たちは全国に番組やCMのマップを作って、いつどこでつぶやいたとしてもそれがすぐに録画済みの番組やCMとリンクする仕組みを作り、維持していきます。※2

もう1つ大切なサービスは、ユーザーの皆さんがいつ何時でもテレビが見られる環境を安定的に維持するということです。従来のメーカーと違って、ハードウェアをユーザーの皆さんに購入していただいたら終わりではありません。前述のように録った番組やCMの中から、面白い番組や話題のCMに出会うためには検索サービスやソーシャルサービスも重要ですが、そのためには録画がきちんと出来ていないと元も子もありません。

もちろんSPIDERは、ハードウェアとして故障が圧倒的に少ないように設計されています。そこにはSPIDER PROでの5年にわたるプロ用のサービスの実績が生かされています。しかし、100%故障を起さないようにすることは無理です。そこで私たちが注力するのは、SPIDERを使う皆さんの録画環境に異変が起こって、テレビを正しく受信・録画できなくなった場合にできるだけ早く解決をすることです。そのためにSPIDERの録画環境を24時間/365日モニタリングして適切な処置を迅速に行えるようにします。ユーザーにとって「全録」は利便性が高いぶんリスクも大きく、故障した場合には全てを失ってしまいます。皆さんにテレビを楽しんでいただくための一番ベーシックなサービスは、皆さんがテレビを見られなくなる期間をなるべく少なくするようにすることだと考えています。こういうサービスがあってはじめて「全録」は生きてくるのです。

SPIDERを古くからご存知の方、熱い共感の想いをメールやtwitterでくださった方には、本当に長い間お待たせしております。現在、発売に向けて量産の手配と開発の詰めをしております。今後ともよろしくお願いします。

株式会社PTP 代表取締役社長 有吉昌康

※本文は、2008年に“Our Soul”として掲載されていた「私たちがSPIDERで目指していること」および「家庭用SPIDERの計画」を修正・加筆したものです。


※1 たとえばある時点で、直近1週間の番組から「芦田愛菜」を検索した場合、普通のレコーダーでは9件ヒットしました。これは番組表にもとづく検索で、どのテレビやレコーダーでもこの数は同じです。
SPIDERではこの9件の出演番組に加えて、25種類のCM、および56箇所の番組中のコーナーがヒットしました。

※2 “電波で配信されている地上波の番組にはパーマリンクという概念が存在しない。
また放送日や放送時間もさまざまな理由でずれることがあり、キー局で放送された番組がローカル局で別の日時に放送されることは日常的に行われている。だからたとえば「日本テレビで3月31日午後4時~5時に放送された番組」というようなアイデンティファイでは、全国でこれと同じ番組をユニークに特定することはできない。”
講談社 現代ビジネス『テレビが進化する可能性を追う! 日本の閉鎖的な放送業界を揺り動かす「SPIDER」のさらなるチャレンジ』より抜粋)